相続放棄を弁護士に依頼するメリット
1 相続放棄は家庭裁判所で行う審判
相続放棄は、相続放棄申述書等を、管轄の家庭裁判所に提出することで開始される手続きです。
相続放棄申述書等が提出されると、管轄の家庭裁判所は、内容等を審査します。
場合によっては質問状の送付、家庭裁判所での審問等を経て、問題ないと判断した場合、相続放棄の申述を受理するという審判をします。
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると、相続放棄申述受理通知書という書類を発行し、相続放棄の手続きは終了します。
相続放棄の手続きは、家庭裁判所による審判であり、裁判の一種です。
そしてこのことが、相続放棄を弁護士に依頼するメリットにつながります。
以下、詳しく説明します。
2 相続放棄手続きの代理人になれるのは弁護士のみ
原則として、裁判の手続きの代理人になることができるのは、弁護士のみです。
代理人になることができるというのは、申述人(相続放棄の申述をする相続人)から委任を受け(通常は委任状を家庭裁判所に提出し、代理権があることを示します)、家庭裁判所に対して代理人を名乗り、申述人に代わって手続きを進めることができるという意味です。
弁護士以外の法律の専門家でも、相続放棄の相談等を受け付けている方もいらっしゃいます。
しかし、弁護士以外の方の場合、相続放棄申述書等の書類の作成等の代行をすることはできますが、代理人になることはできません。
このことは、相続放棄申述書を管轄の家庭裁判所に提出するまでは、あまり影響はありません。
しかし、その後、以下に述べるような大きな影響が発生します。
3 家庭裁判所との連絡
先述したとおり、弁護士以外は、家庭裁判所に対し、代理人を名乗ることができません。
実務の面においては、相続放棄を弁護士に依頼をしていない場合、相続放棄申述書において、代理人の名称を記載することができないということになります。
弁護士以外の専門家に、相続放棄申述書作成の代行を依頼した場合、相続放棄申述書には申述人本人の氏名のみを記載することになります。
相続放棄申述書の提出を受けた家庭裁判所側から見ると、弁護士以外の専門家が相続放棄申述書の作成代行をした場合、あくまでも申述人本人が相続放棄手続きをしているように見えます。
相続放棄を弁護士に依頼し、家庭裁判所に委任状が提出され、弁護士が代理人であることが相続放棄申述書に示されている場合、相続放棄申述書提出後において、原則として家庭裁判所は代理人弁護士を連絡先として認識します。
相続放棄申述書が提出された後、家庭裁判所は審査を行いますので、確認したい事項や、追加で提出を求めたい書類等が発生することもあります。
専門的な内容であることもあるので、代理人弁護士が家庭裁判所との間で連絡を取り合うことができるのは、申述人にとって大きなメリットとなります。
もし弁護士以外の専門家に相続放棄申述書作成の代行を依頼し、弁護士が代理人になっていない場合、家庭裁判所は申述人本人に連絡をしますので、申述人本人が家庭裁判所からの専門的な質問等に対応しなければならないことになります。
4 家庭裁判所からの質問状対策
相続放棄申述書等を管轄の家庭裁判所に提出し、審査が開始されると、家庭裁判所は質問状を送付することがあります。
質問状を送付する理由は、主に2つあると考えられます。
1つめは、法定単純承認事由に該当する行為の有無を確認するためです。
法定単純承認事由に該当する行為とは、相続放棄が認められなくなる可能性のある行為をいいます。
代表的なものとしては、相続財産の売却、費消や、遺産分割協議などがあります。
2つめは、申述人本人の意思に反した相続放棄の申述でないかを確認するためです。
具体的には、申述人以外の者(たとえば利害が対立している相続人)が申述人になりすまして相続放棄の手続きをしていないか、または申述人が強迫などを受けて無理矢理相続放棄をさせられていないかを確認します。
回答の内容次第では、相続放棄が認められなくなる可能性もありますので、質問状に対しては、相続放棄申述書に記載した内容と矛盾しないように、正確に回答する必要があります。
また、被相続人が死亡してから3か月以上経過した後に相続放棄申述書を提出した場合など、特殊なケースにおいては、質問も複雑で専門的なものになることもあります。
家庭裁判所による質問状の送付は、いくつかのパターンがあります。
まず、申述人本人に送付するというパターンです。
弁護士が代理人についていても、申述人本人に送付されます。
このパターンであっても、弁護士に相続放棄を依頼していれば、どのように回答するかについて、正確なアドバイスを受けることができます。
次に、代理人弁護士に質問状が送付されるパターンです。
この場合、代理人弁護士が質問状に回答するので、安心です。
代理人弁護士がついている場合、家庭裁判所によっては、代理人弁護士に対して電話で照会(質問)をするというパターンもあります。
最も注目すべきは、家庭裁判所によっては、代理人弁護士がついている場合に限り、質問状を送付しないというパターンがあることです。
質問状に対する回答内容次第では相続放棄が認められなくなる可能性もありますので、そのようなリスクをゼロにすることができます。