故人の携帯を解約してしまった場合に相続放棄できるか

文責:所長 弁護士 湯沢和紘

最終更新日:2024年05月23日

1 被相続人の携帯電話の解約はできると解釈できる余地はあります

 もし相続放棄をする際に、被相続人の携帯電話を解約してしまったとしても、ただちに相続放棄が認められなくなるとまではいえないと解釈することはできます。

 ただし、裁判所が明確に携帯電話の解約が相続放棄に影響を与えないと示しているわけではないので、現状としては、どうしてもリスクは残ることは念頭に置く必要があります。

 以下、その理由について、相続放棄と財産の処分との関係をもとに説明します。

2 相続放棄と財産の処分の関係

 故人(被相続人)の携帯電話は、携帯電話を提供する通信会社との間で、電話料金を支払う代わりに電話による通話サービスを提供するという契約のもとで使用可能になっています。

 被相続人の携帯電話の解約をするということは、被相続人の契約上の法律関係を処分するという見方もできます。

 もっとも、携帯電話を使用する権利に財産的価値があるかという点においては、ほぼないといえます(固定電話の電話加入権も、近年ではほぼ価値がないとされています)。

 そして、携帯電話を解約しない限り、基本料金等が被相続人の口座から引き落とし続けられたり、被相続人の未払い金債務が増え続けてしまうことを考慮すると、携帯電話を解約することは、むしろ被相続人の財産の減少を防ぐ保存行為であるとも考えられます。

 このように解釈すると、被相続人の携帯電話を解約することは、法定単純承認事由(相続放棄が認められなくなる行為)を定めた民法921条第1項本文の相続財産の「処分」ではなく、同項ただし書きに定められた「保存行為」として扱われるということができます。

 なお、法的に直接関係があることではありませんが、相続財産清算人の実務においては、被相続人の電話の解約は権限外行為(相続財産の保存行為を超えた行為)ではなく、保存行為として扱われるとされています。

 

 【参考条文】

 (法定単純承認)

 第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 (第二項以下略)

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