相続放棄をしたら墓はどうなるか

文責:弁護士 岡安倫矢

最終更新日:2025年03月06日

1 墓は相続の対象とはならない

 墳墓(墓石、墓地)については、祭祀財産として、相続の対象となる遺産とは区別されます。

 遺産については、相続分に従って相続人間の協議の下で誰が相続するか決まります。

 一方で、祭祀財産については、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべきものが承継します。(民法897条1項)

 ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべきものがあるときは、その者が承継します。(民法897条1項但し書き)

 また、慣習が明らかでないときは、承継者は家庭裁判所が決めます。(民法897条2項)

 このように、通常の相続とは全く異なるルールで墓を引き継ぐ人が決まります。

2 相続放棄をしても墓を引き継ぐことはできる。

 相続放棄をすると、相続人とならなかったものみなされ(民法939条)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継(民法896条)しなくなります。

 裏を返せば、被相続人の財産ではない墓については引き継ぐことができます。

 もっとも、純金製の位牌など、財産としての価値が高い場合には、祭祀財産と認められず遺産として扱われるなど例外的な扱いをされる可能性はありえます。

3 相続放棄をしても墓を放棄することはできない。

 これは、前の説明と同じになりますが、相続放棄により引き継がなくてよくなるのは、被相続人の財産に属した一切の権利義務です。

 そのため、田舎の売れない土地や、被相続人が作った借金などは放棄することができます。

 一方で、墓は相続財産ではないため、相続放棄をしても放棄できません。

 そのため、例えば、子供が自分一人しかおらず、寺などの墓地の管理者から墓の名義を変更するよう迫られると、相続放棄をしても断ることはできないはずです。

 もっとも、実際には、相続放棄申述受理通知書(相続放棄が終わった際に裁判所が発行する書類)を見せることで墓を引き継ぐことを拒否できることもあります。

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