相続放棄をしたときの被相続人の財産に関する問題
1 相続放棄をしても財産の保存義務を負う場合がある
相続放棄をすると、被相続人の財産は一切取得できません。
ところが、被相続人の財産を取得しないにも関わらず、放棄時に占有していた財産については、その保存義務を負うことになります。
保存義務とは、おおまかにいうと、次順位の相続人または相続財産清算人を選任して相続財産を引き渡すまで、汚損や滅失を防止し、保全する責任です。
相続放棄を行う際、この財産の保存義務が問題となることがあります。
2 問題となりやすい財産
保存義務を負ったときに、特に問題となりやすい財産は、不動産、自動車、賃借物件内の残置物です。
不動産については、土地はそこまで問題となりませんが、建物については問題となりやすいです。
なぜかといいますと、相続放棄をすると、建物の取り壊しをすることはできなくなります。
それにもかかわらず、建物は時間の経過とともに老朽化が進みますので、倒壊等の危険性が生じると、近隣から何らかの責任を追及される可能性もあります。
そのため、補修等を続けなければならなくなります。
補修は保全行為であるため、相続放棄の効果とは無関係です。
自動車についても、相続放棄をすると、処分することができなくなります。
それにもかかわらず、賃借している駐車場に停めていたりすると、賃貸人から撤去を強く求められたり、オイルやガソリン漏れなどによって土壌汚染を引き起こすことがあります。
被相続人が賃貸物件にお住まいであった場合、生前に使用していた身の回りの品(残置物)についても、原則として処分することができません。
しかし、賃貸人からは撤去を強く求められることもあり、トラブルへ発展するケースがあります。
3 被相続人の財産は可能な限り生前に対策をする
すでに借金があることが分かっており、相続放棄をすると決めている場合には、上記のような保存義務が問題となりそうな財産について、生前のうちに処分をしておくなどの対策をしておくことが大切です。
生前対策というと、資産を多くお持ちの方がするものだというイメージがあるかもしれません。
しかし、相続放棄との関係でも、生前対策はとても大切です。
もし被相続人となる方がご存命のうちに、コンタクトがとれるようでしたら、使っていない建物の取り壊し、自動車の廃車処分、賃貸物件内に置かれている物の処分(できれば、賃貸借契約自体の解約)などを事前に行ってもらえるようご相談されるのがよいと思います。